2017年2月14日に発生した、成田空港B滑走路34RへタイエアアジアX機が誤進入し、チャイナエアラインが着陸復行を行った重大インシデントの調査報告書が公開されました。
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パイロットの停止線見落としが主原因ですが、成田空港の未買収用地による特有の誘導路もインシデント発生の一因のようです。1本の滑走路で離着陸を行うとトラブルも発生しやすいので、第3滑走路建設で、早く管制しやすい空港になる事を望みます。 以下調査報告書です。
タイ・エアアジアX株式会社所属エアバス式A330-343X型HS-XTCは、平成29年2月14日(火)、成田国際空港の滑走路34Rから離陸するため飛行場管制所から滑走路手前で待機を指示されたが、停止位置標識を越えて滑走路に誤進入したため、着陸許可を受けて進入中であった中華航空公司所属エアバス式A330-302型B-18361が飛行場管制所の指示により復行した。タイ・エアアジアX株式会社(以下「A社」という。)所属エアバス式A330-343XHS-XTC(以下「A機」という。)の機長、A機の副操縦士、中華航空公司所属エアバス式A330-302型B-18361(以下「B機」という。)の機長及び成田飛行場管制所の航空管制官(以下「タワー」という。)の口述並びに管制交信記録、飛行記録装置(以下「FDR」という。)及びマルチラテレーション・システム*1(以下「MLAT」という。)の記録によれば、飛行の経過は概略次のとおりであった。A機は、平成29年2月14日、機長ほか乗務員9名、乗客369名計379名が搭乗して、A社の定期607便として、成田国際空港を出発する予定であった。A機には、機長がPF*2として左操縦席に、副操縦士がPM*2として右操縦席に着座していた。A機が離陸のため誘導路B*3を滑走路34Rに向かって走行中、タワーは、同滑走路から約15nm付近を進入中のB機に対して着陸許可を発出した。その後、A機は離陸準備完了をタワーに通報し、タワーは滑走路34R手前での待機指示及び離陸順番のために約6分の遅延が見込まれること、さらに、交信の最後に再度、滑走路34R手前での待機指示を通報した。これに対し、A機は、滑走路手前で待機する旨復唱した。A機の機長は、誘導路B9(以下「B9」という。)の停止位置標識(以下「停止線」という。)の手前で右折する際に、副操縦士に対して前脚にある右方向を照らすための地上旋回灯(Runway Turn Off Light)を点灯するように指示した。副操縦士は、誤って翼端のストロボ灯(Strobe Light)を点灯させたことから、機長から間違いを指摘され、数秒後にストロボ灯を消灯して地上旋回灯を点灯した。この間、機長は、副操縦士のスイッチ操作に気を取られていた。タワーは、A機及びB機の状況を目視により監視していると、滑走路手前で待機する出発機は、通常、誘導路B上に停止するはずだが、A機はB9の停止線を越えて滑走路に進入しているように見えた。タワーは、空港面表示システム(2.7(5)に後述)の画面上でA機のシンボルマークが通常よりもかなり滑走路寄りであったことから、20時15分31秒に、A機に対して「滑走路手前で待機しているか」と確認した。FDRの記録から、その2秒後にA機の対地速度は0となり、停止した。その際にもA機は「滑走路手前で待機」と復唱したが、タワーからはA機が滑走路に近いように見えたこと、及び空港面表示システム画面上の滑走路表示が、航空機が停止線を越えて滑走路に進入したことを知らせる黄色に変わったことから、タワーは安全上疑義があると判断し、B機に対して復行を指示した。B機の機長は、タワーと出発機が何度か通信を行っていたことは記憶していたが、着陸に向けた操縦に集中していたため、その内容について詳しく分からなかった。また、夜間で暗かったため、A機が滑走路に進入したことについても判別できなかったが、タワーの指示により復行した。(1) 同空港の誘導路に関する情報滑走路34RのB9に接続する誘導路Bは、滑走路との間隔が狭くなっている。滑走路34R手前で停止するよう指示を受けた航空機は、B9の停止線手前には機体を正対させる奥行きがないことから、B9手前の誘導路B上に停止する(図2参照)。(2) 滑走路の停止線等滑走路34Rに接続するB9には、滑走路に入る前の一時停止すべき位置を示すために、停止線及び停止線灯と併せて滑走路警戒灯が設置されている(図3参照)。停止線は、低視程時には赤色の停止線灯が点灯して停止位置を示すが、夜間であっても好天時には点灯しない。滑走路警戒灯は、低視程時及び夜間に黄色で明滅して停止位置を示す。本重大インシデント発生時に停止線灯は点灯していなかったが、滑走路警戒灯は点灯していた。(3) フライトレコーダーに関する情報A機及びB機には、FDR及び操縦室音声記録装置(以下「CVR」という。)が装備されていた。本重大インシデント発生後も両機は運航が継続され、FDRには本重大インシデント時の記録が残されていたが、2時間記録可能なCVRはその記録が上書きされていることが明らかであったため、取り卸さなかった。(4) FDR及びMLATの記録並びに監視カメラの映像FDR及びMLATの記録から、A機が地上走行中にタワーからの指示により停止した推定位置は、図3のとおりであった。その際にB9の南側に設置されている監視カメラに記録された停止時のA機と滑走路警戒灯との位置関係は、写真1のとおりであった。また、タワーが復行を指示した際のB機は、最終進入経路上の滑走路進入端から約2,000mの位置上空であった。(5) 空港面表示システム同空港の管制塔には、MLATが計算した空港面を移動する航空機等の位置を画面上に表示するシステムが整備されている。このシステムは、航空機等の位置から滑走路に進入したか否かを判定する機能を有し、到着機が滑走路進入端まで一定時間以内の位置にある場合に他の航空機等が停止線を越えると、滑走路が画面上で黄色表示に変わり、管制官に対して警告を表示し、注意喚起する。本重大インシデント発生時には、A機がB9の停止線を越えたことを同システムが判定した際に、B機が規定された範囲より滑走路進入端に近い位置にあったことにより警告が表示された。図4 空港面表示システムの警告作動時の表示イメージ(6) 管制交信の状況A機とタワーの交信状況について、管制交信記録からは雑音や混信はなく交信が行われていた。(7) A機が停止した時の機長及び副操縦士の状況機長は、これまで同空港の滑走路34Rからの出発を数多く経験していた。機長は、B9の停止線手前の誘導路Bに停止する際に明確な目標がなく、分かりづらいと感じていた。また、機長は、本重大インシデント発生時、副操縦士が行った地上旋回灯及びストロボ灯の操作に気を取られており、タワーから確認の通報を受けた際、滑走路末端付近の他の標識をB9の停止線と誤認したかもしれないと思った。副操縦士は、滑走路34Rからの出発の経験は少なく、B9の停止線の機上からの見え方や停止すべき位置を明確に理解していなかった。機長及び副操縦士は、本重大インシデント発生時に滑走路34Rへ向けての地上走行における留意点等を地上走行前にブリーフィングしていなかった。(1) 滑走路進入時の状況① A機の状況FDR及びMLATの記録並びに監視カメラの映像から、A機は、タワーから滑走路手前に停止するよう指示を受けて地上走行中、タワーから停止位置に関して確認があった際には既に停止線を越えていたものと推定される。算出値には誤差があるものの、A機は、停止線を約60m越えたものと考えられる。② タワーの対応タワーは、目視によりA機がB9の停止線を越えているように見えたこと及び空港面表示システムの滑走路表示が、A機が滑走路に進入していることを知らせる黄色に変わったことから、滑走路進入端から約2,000mの位置上空にあったB機に対して、安全を優先して復行を指示したものと推定される。③ B機の対応B機は着陸許可を受けて進入中に、タワーと他機との間で通信があったことは記憶にあったが、その内容までは把握していなかったこと及び夜間で暗く目視できなかったことから、A機が滑走路に進入したことには気が付かなかったものと推定される。その後、タワーからの指示により復行を行ったものと認められる。(2) 管制交信管制交信記録からは、交信中に雑音や混信もなかったこと及びA機が指示を正確に復唱していることから、タワーの指示内容を正常に受信できたものと考えられる。また、A機は、タワーの指示に聞き返すこともなく応答していることから、指示に対して疑問や疑念を持つことはなかったものと考えられる。(3) A機の機長及び副操縦士の判断と操作機長は、地上走行中、B9に近づき右折する際に副操縦士に右方向の地上旋回灯の点灯を指示した。副操縦士が誤ってストロボ灯を点灯させたため、機長は修正を指示し、修正するまでの間、副操縦士のスイッチ操作に気を取られていたものと考えられ、機長及び副操縦士がB9の停止線及び滑走路警戒灯を見過ごした可能性が考えられる。A機の機長は、タワーからの確認によりA機を停止させたが、停止した位置は、既に停止線を約60m越えていたものと考えられる。副操縦士は、滑走路34Rからの出発の経験が少なかったことから、B9の停止線で停止する場合、機体がどの位置で停止すべきかイメージできていなかった可能性が考えられる。(4) 同空港のB9周辺の誘導路一般的な空港では誘導路は滑走路と直交しており、航空機は滑走路に対して正対した状態で停止するが、こうすることは出発する航空機の操縦士に対して停止位置の確認や到着機の視認性の上で有益であると考えられる。しかしながら、B9は滑走路に対して直交しているものの十分な奥行きがないことから、大型機ではB9の停止線位置で停止した場合、滑走路に対して90°を向いて停止できない。このため、その手前の誘導路B上に停止する必要があるものと推定される。空港設置管理者は、停止線の視認性の検証や滑走路誤進入対策の検討を実施することが望ましい。(5) 本重大インシデントにおける危険性A機が滑走路34Rに進入し、タワーからの指示によりB機が復行した位置の両機の推定間隔は、約2,000mであった。ICAOの「滑走路誤進入防止マニュアル」による本重大インシデントに関する危険度の区分は、ICAOが提供する判定ツールによると、Category C(衝突を回避するための十分な時間及び/又は距離があったインシデント)に相当するものと認められる。4 原因本重大インシデントは、タワーから滑走路34Rの停止線で停止するように指示されたA機が停止線を越えて滑走路に誤進入したため、既に着陸を許可されていたB機が同じ滑走路に着陸を試みる状況になったことにより発生したものと推定される。A機が停止線を越えて滑走路に誤進入したことについては、機長及び副操縦士が、機内のスイッチ操作に気を取られて外部への注意が不十分になったことで、停止線及び滑走路警戒灯を見過ごした可能性が考えられる。5 再発防止策(1) 同社が講じた再発防止策① 安全情報の発出A社は、本重大インシデントを受け、全運航乗務員に対して発生直後に本重大インシデントの共有及び注意喚起を行い、その後、滑走路誤進入防止のため、地上走行時の注意事項を示した安全情報を発出した。② 同空港における地上走行時の措置A社は、同空港の地上走行における問題点を検証し、特に滑走路34Rから離陸する前に誘導路B9の停止線手前で停止する場合、余裕を持った位置で停止すること及び地上走行時の速度等に注意するよう全運航乗務員に周知徹底を図った。③ 運航乗務員への再教育A社は、本重大インシデントの是正措置の一環として、全運航乗務員に対してCRM教育を主軸とした再教育を実施した。(2) 成田国際空港関係者による再発防止に向けた取組成田国際空港では、本重大インシデント発生以前から計画のあったパイロットを含む施設、運用担当関係者が集まって、同空港の安全性向上を議論する会議体「Runway Safety Team」を立ち上げ、同空港における滑走路及び誘導路誤進入防止に関しての検討を平成29年6月から開始した。
今回の重大インシデントは、管制官が冷静に対処した事案だと思います。空港管制施設で停止位置を把握する機器があることを初めて知りましたが、しっかりと作動して事故がなく良かったです。
今後も外国航空会社が多く就航することが予想されるため、パイロットにとってもわかりやすくなるような既存施設の整備も期待したいです。
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