新型コロナウイルスの影響により退役が加速しているA380ですが、その巨大な機体と燃費性能の悪さやにより徐々にオペレーターに敬遠され、新型コロナウイルスによる航空需要の蒸発が決定打となり、同機の退役は加速しました。しかしながら各国がコロナとの共存に舵をきったことなどが影響し需要が急回復していることから、計画を変更して再運用するエアラインも出始めています。既に完全に退役を完了させたエアラインを含め保有オペレーターの同機に対しての今後の扱いをまとめます。
【退役を完了させたエアライン】
◆エールフランス航空(導入機数10機)◆
当初計画の2022年までに段階的に退役させる計画を、新型コロナウイルスの需要減退により、即時退役を決定。既に一部機材は解体済み。
◆ハイフライ航空(導入機数1機)◆
元シンガポール航空の機材をリース導入し、中古のA380を運航した唯一のエアライン。新型コロナウイルスの需要減退により、リース期間内での返却を決定し、残ったリース期間では一時的な貨物機に改修。
【全機退役を決定・検討もしくは決定的なエアライン】
◆エティハド航空(導入機数10機)◆
同社CEOがA380は商業的に持続可能な航空機ではない、二度と運航することはないだろうと発言。公式ホームページからもA380を削除し退役が決定的。しかしながら2021年12月のインタビューで、同社CEOが可能性は低いながらも復帰する可能性が僅かながらあることを明らかにし、現時点では全機保管状態。なお関係筋の情報として2022年12月に復帰させるとの情報もあるが、現段階では確固たる情報はない。
◆中国南方航空(導入機数5機)◆
同社の上級役員が、コロナ禍においてA380の運用について見直す必要があるとし、退役を示唆。そして2022年初旬に2同型機の退役を決定し、既に2機が飛行機の墓場『モハーベ砂漠』へ移動済みで解体を予定。残る3機も2022年内には退役を予定している。
◆マレーシア航空(導入機数6機)◆
2021年5月に同社CEOが数ヵ月内に全機退役させることを明らかに。『A380が将来の計画に適合しないと確信している』とコメント。今年7月には同型機の販売を開始しており、2022年内に売却を完了させる計画としている。現在のところ保有する全機をエアバスに売却する契約を結んだとみられ、今後移送スケジュール等が判明するとみられる。
◆タイ国際航空(導入機数6機)◆
経営破綻した同社の経営再建計画に同機の全機退役が含まれていることが明らかに。今後再建案が債権者と裁判所に承認されると正式に、退役のスケジュールを組む見通し。
◆カタール航空(導入機数10機)◆
同社CEOが既に保有している10機のうち5機の退役は決まったとし、残る5機についても2~3年以内に退役させることを検討していることを明らかに。最近ではA380の環境性能に問題があるとしているほか、同機を運用するオペレーターに対し過激な発言が目立つ(エミレーツ航空を意識しているみられている) これまで同社CEOは一貫として退役の方針を貫いていたものの、A350型機の運航停止措置の影響を受け、一時的にA380の運用を再開したが、あくまで一時的な措置とみられ、退役させる計画はコロナ以前からあったため継続との見方が有力。
◆大韓航空(導入機数10機)&アシアナ航空(導入機数6機)◆※今後統合予定
両社の統合によりA380の保有機数は、エミレーツ航空に次ぐ規模になる見込みで、統合後A380の運用と投入路線を見直すと大韓航空のウ・ギホン代表取締役社長が明らかに。その後大韓航空のチョ・ウォンテCEOがアシアナ機を含め5年以内に全機退役させる方針を明らかにし、2026年には全機が退役する予定となっている。なお現在全機を地上駐機としているアシアナ航空は、2022年冬ダイヤから同型機の再開を予定している。
【今後も運用を継続する計画のエアライン】
◆エミレーツ航空(導入機数123機※未受領分含)◆
同社CEOが今後20年にわたりA380を運用する意向を示し、今後も同機をフラッグシップとして運用すると明言。既に発注済みの全てのA380の受領を完了しており、今後プレミアムエコノミー搭載機を増やすために機内改修に着手している。
◆ルフトハンザドイツ航空(導入機数14機)◆
6年以内の大幅な機材削減計画に含まれ既に退役が決まっている8機に加え全機の退役が予定されたものの、B777Xの開発遅延や航空需要の急回復により大型機が不足し再運用を決定。2023年夏からの投入を予定し、4機(1機を予備機)の運用または、8機(2機を予備機)の運用を検討。今後は主にミュンヘンベースを想定している模様。
◆カンタス航空(導入機数12機)◆
現在アメリカのモハーベ砂漠で全機を長期保管中。アメリカ路線において同機の運用上のメリットがあるとしたほか、ヒースロー空港などの混雑空港でも能力を発揮するとして今後も運用を継続する方針。これまで全機の復帰を計画していたものの、2機の退役を決定し残る10機は復帰を予定。2022年内には5機を復帰させ、残る5機については2024年までに復帰させる予定。
◆ブリティッシュエアウェイズ(導入機数12機)◆
同社CEOがヒースロー空港のようなハブ空港の効率性を考えると、A380には将来性があると考えていると発言し、今後の機材運用計画に同機が含まれていることを明らかに。2021年8月には、保有する12機のA380のメンテナンス契約をルフトハンザテクニックと2027年8月まで延長したことを発表し、2021年11月からの同型機の運航を再開し、運航路線を拡大している。
◆シンガポール航空(導入機数24機/保有19機)◆
新型コロナウイルスの影響を受け7機の退役を決定したものの、2021年11月18日からシンガポール~ロンドン線に同機を投入し運用を再開し、投入路線を拡大中。
◆ANA(導入機数3機)◆
2021年10月16日に3号機が成田空港にデリバリーされ、ようやく導入予定の3機が揃う。コロナ以前に契約であるものの、2019年9月にサフラン社とA380において10年間のメンテナンス契約(NacelleLife™ support contract)を締結しており、約10年間は運用する計画とみられる。なお国交省がA320とA380の同時定期運航乗務を認めたことから、乗員繰りでの効率性は確保される模様。
上記のように10社が退役済み、または退役に向けた動きがあり、残る6社が今後も運航を継続する見通しです。世界的にコロナとの共存の方針が定まってきたことで、今後航空需要が回復に向かうと予測されており、これに伴い今後も同型機を運用する方針のエアラインは、運航再開スケジュールの策定に着手し、徐々にスケジュールが明らかになっています。
また航空業界をはじめ、世界的に環境に配慮する動きが急速に強まっていることから、最新鋭機に比べCO2排出量が多い同型機は、近い将来境遇が悪くなることも考えられ、想定よりも早く退役に追い込まれる可能性も出てきています。