航空券の価格が日々変動するなか、各国のルールの違いや航空会社の「温情」を悪用しようとするトラブルが発生しました。ANAが、アメリカ運輸省(DOT)に苦情を申し立てた乗客に対し、一切の妥協を許さない答弁書を提出しています。
事の発端は2026年1月、アメリカ在住の乗客がANAの航空券を購入したことに始まります。この乗客の行動には、初めから不自然な点がありました。アメリカの消費者でありながら、アメリカ向けのドル決済サイトではなく、あえて「日本向けサイト(日本円決済)」を利用していたのです。歴史的な円安の恩恵を受け、少しでも安く航空券を手に入れるための意図的な選択だったとみられます。
その後、乗客はキャンセルを申し出ました。日本サイトの規定では当然キャンセル料が発生しますが、ここで乗客は「絶対に別のチケットを買い直して乗るから」と交渉し、ANAから特例として「ペナルティなしでの全額払い戻し」を引き出すことに成功します。しかし、乗客の真の目的は別にありました。約束通りにダミーとなる2枚目の航空券を購入した直後、手のひらを返すように「この2枚目も全額払い戻してほしい」と要求してきたのです。
背景には、アメリカ特有の強力な消費者保護ルール「24時間ルール(購入から24時間以内なら無条件で無料キャンセル可能)」の存在が透けて見えます。つまり乗客は、ANAの温情を利用して1枚目のキャンセル料を免除させた上で、2枚目はアメリカのルールを盾にして無料でキャンセルし、「1円も損せずに旅行を白紙化する(あるいは他社の安い便に乗り換える)」という悪質な手口を目論んでいた可能性が高いと考えられます。
この極めて身勝手な行動に対し、ANAは毅然とした態度でノーを突きつけました。特例の前提条件であった「新しい航空券を維持する」という約束が破られたとして、ANAは2枚目の返金を断固として拒否しました。納得がいかない乗客は「不当な対応だ」としてDOTへ公式に苦情を申し立てましたが、ANAは一歩も引くことはありませんでした。
DOTに提出された答弁書の中でANAは、「本件は日本向けサイトで日本円決済された取引であり、完全にアメリカ外での契約であるためDOTの管轄外である」と法的な枠組みを明確に指摘しています。さらに、特例対応時の合意を示す通話記録も保持していることを明言し、「乗客は現在も有効なチケットを持っており、ANA側に不当な行為は一切ない」として、本件の速やかな棄却を求めました。
航空券のダイナミックプライシングが一般化し、ネット上には「安く飛ぶための裏技」が溢れています。しかし、運賃規則の隙間を突き、航空会社の特例対応までも巧妙に利用しようとする悪質なケースに対しては、毅然と対応しなければ、正規のルールを守って搭乗している大多数の善良な乗客との公平性が保てません。
アメリカという消費者保護が極めて強い市場において、自社の正当性を堂々と主張し、理不尽なクレーマーに対して「ダメなものはダメ」と突き返したANAの今回の対応は、日本の航空業界における危機管理やカスタマー対応のひとつの模範として、称賛されるべき事案と言えそうです。




