ユナイテッド航空の札幌/新千歳~サンフランシスコ線の開設が発表され、今冬の新千歳空港はエアカナダのバンクーバー線、そしてカンタス航空のシドニー線などの長距離路線が運航される予定となり、名だたるメガキャリアが相次いで北海道を目指します。この背景には、単なるスノーリゾートとしての需要拡大だけでは片付けられない、航空業界の路線網における新千歳の地理的価値と大きなポテンシャルが隠されています。
最大の要因は、急拡大する訪日需要(インバウンド)の中でも、北米の富裕層や旅行客を中心とした冬の北海道への高い支持です。ニセコをはじめとする北海道のパウダースノー(Japow)は世界的にもブランド化しており、高単価なレジャー需要が確実に見込める市場に成長しています。冬季限定の運航であることからも、このスキー・スノーボード客の取り込みが主眼であることは明らかです。
また海外の有力エアラインがこぞって直行便を開設する理由は、既存の「首都圏経由ルート」が抱える大きな課題を解決できる点にもあります。国際線で入国して国内線へ乗り継ぐ際、乗客は最初に着陸した羽田や成田などの空港で一度すべての手荷物をピックアップし、自身で税関検査を受けなければなりません。スキー板などの大型のスーツケースを抱えたレジャー客にとって、巨大なターミナルでの荷物移動や再預け入れは非常に大きな負担です。新千歳への直行便は、この入国時の最も面倒なプロセスを回避し、重労働を到着時の1回のみに集約できるという、他社経由便に対する圧倒的な競争力を持っています。
さらに、北海道の潜在能力を語る上で欠かせないのが欧州路線の存在です。もし現在のロシア・ウクライナ情勢によるロシア領空の飛行制限が起きていなければ、フィンエアーによる札幌/新千歳~ヘルシンキ線が運航され、欧州からの太いパイプが築かれていたはずです。この直行便の存在は、北海道が北米やオセアニアのみならず、欧州市場からも直接乗り入れるだけの十分な採算性と魅力を持ったデスティネーションであることを証明しています。巨大な地政学的制約がある現在の状況下ですらこれだけの就航ラッシュが続いている事実を踏まえれば、事態が正常化した暁には欧州キャリアの参入も再び活発化し、新千歳の国際線ネットワークにはまだまだ大きな発展の余地が残されていると言えます。
かつてフィンエアーは、地理的優位性を活かし、ヘルシンキを「日本から一番近いヨーロッパ」として強力にブランディングし、一大ハブへと成長させました。これと同様のパラダイムシフトが、今後の札幌にも起きる可能性があります。地球儀を見れば一目瞭然ですが、北米からアジアへ向かう太平洋横断の最短ルート上において、北海道は最初の接点に位置しています。今後、直行便の定着とともに、札幌は単なるローカルな観光地としてではなく、「北米から最も近い日本の玄関口」として世界的に認知されていく可能性を秘めています。
ユナイテッド航空、エアカナダ、カンタス航空の相次ぐ就航は、新千歳空港がインバウンドの単なる終着点から、新たな国際的ゲートウェイへと進化する重要な転換点です。現在は冬季限定のレジャー路線という色合いが強いものの、「北米に最も近い」という地理的優位性と未開拓の欧州路線のポテンシャルが掛け合わさることで、将来的には通年運航化やビジネス・貨物需要をも取り込んだ、日本北部のハブ空港へと発展していくシナリオが十分に描けます。世界の航空業界が熱視線を送る新千歳路線の動向は、今後も日本の航空ネットワーク全体に大きな影響を与えていくはずです。
なお北海道エアポートもこの需要を取り込むための取り組みを推進しており、将来的には第3ターミナルの建設を検討するなどしていることから、今後もその動向には注目が集まります。Photo : 北海道エアポート




