イギリスを拠点に、A380を用いた大西洋横断路線の運航という壮大な計画を掲げていたスタートアップ「グローバル航空」が、事実上の経営破綻の危機に瀕しているとみられます。最大の資金源であった親会社の旅行宿泊プラットフォーム「ホリデー・スワップ」が機能停止に陥り、債権者からの会社清算申し立てが行われたと一部海外メディアが報じました。実績のない新興企業がメガキャリアでさえ手を焼くA380を運航するという計画には当初から懐疑的な声が多かったものの、いよいよその懸念が現実のものとなろうとしています。



この事態を受け、業界の関心は同社が保有する初号機、元中国南方航空のA380(登録記号:9H-GLOBL)の行方に集まっています。同機は2025年5月にハイフライ・マルタの運航で大西洋を横断するチャーターフライトを実施して以降、収益を生むことなく、同年7月からフランスのタルブで長期保管状態が続いています。独自の航空運送事業許可(AOC)の取得や、元中国南方航空の3クラス506席仕様からの客室改修には数千万ドル規模の追加投資が必要でしたが、資金ショートによりこれらの計画は頓挫したとみられます。
仮にグローバル航空の清算が確定した場合、この機体が他社に売却され、再び旅客機として空を舞う可能性は極めてゼロに近いと言わざるを得ません。A380の中古機市場は事実上存在せず、莫大な重整備費用や自社仕様へのレトロフィットコストを負担してまで導入に踏み切るエアラインは皆無に等しいためです。最も現実的であり、かつ唯一の選択肢となるのが「パーツアウト(部品取り・解体)」です。皮肉なことに、現在同機が眠るタルブ空港は、航空機リサイクルとパーツアウトの世界的大手である「TARMAC Aerosave」の本拠地であり、機体はすでに解体への最短距離に置かれていると言えます。
しかし、このA380のパーツアウトは、世界の空を今なお飛ぶ現役のA380オペレーターにとっては「恵みの雨」となります。現在、エミレーツ航空をはじめ、ブリティッシュ・エアウェイズ、カタール航空、ルフトハンザドイツ航空、そしてANAなどがA380を運用していますが、サプライチェーンの混乱やエアバス側の部品製造縮小により、各社ともスペアパーツの確保に苦慮しています。特に同機が搭載するロールス・ロイス製Trent 900エンジンや、定期交換が必須となるランディングギア、さらには各種アビオニクスといった重要コンポーネントは、中古部品市場で喉から手が出るほど求められている需要の高いアイテムです。
A380による優雅な空の旅を夢見たグローバル航空の挑戦は、一度も自社運航を結実させることなく幕を下ろそうとしています。しかし、彼らのフラッグシップとなるはずだった機体は、解体され優良な中古部品として市場に供給されることで、世界中の既存エアラインがA380を限界まで飛ばし続けるための「ドナー」として貢献することになります。航空業界のシビアな現実と、無駄なく循環するリサイクルエコシステムのしたたかさを、タルブで静かに眠る巨体が雄弁に物語っています。Photo : Global Airlines




