FSC 編集部おすすめ記事 航空ニュース

利用者は半減、それでも飛ぶ。「中東エアライン」が危機下でも7割の搭乗率を維持する、したたかな国家戦略

 今、中東の空がかつてない緊迫感に包まれています。相次ぐ地政学的リスクの高まりにより、多くの海外キャリアが中東路線の運航を見合わせるなか、エミレーツ航空やカタール航空、そしてエティハド航空をはじめとする「中東メガキャリア」は、依然としてフライトを維持し続けています。

 しかし、実際のところ利用者は激減しており、経営的な打撃は計り知れません。乗客が消えた空で、なぜ彼らはリスクを冒してまで飛行機を飛ばし続けるのでしょうか。そこには、他国の航空会社とは一線を画す「したたかな戦略」と、危機下でも採算を合わせる驚異的なオペレーション能力が存在します。

ファクトが示す厳しい現実。旅客数は半減し、乗客は直行便へ

 まずは足元のシビアな数字に目を向ける必要があります。国際航空運送協会(IATA)の2026年4月実績データによると、中東キャリアの旅客需要(RPK)は前年同月比で実に48.1%減と、半減に近い落ち込みを記録しました。

 この需要急減の大きな要因となっているのが、中東情勢の緊迫化に伴う「突発的な空域閉鎖リスク」と、それに伴う旅行者の心理的な渡航不安です。有事の際に中東のハブ空港で足止めを食らうリスクや、紛争地周辺を飛行することへの警戒感から、利用者の間に明確な「中東離れ」が起きています。

 その結果、旅行者が欧州〜アジア間の「直行便」へシフトする動きが加速し、同区間の直行便トラフィックは15.3%増加しました。航空データ分析のOAGによれば、6月時点での提供座席数はドバイ国際空港で前年比26.5%減、ドーハで21.4%減となっており、中東キャリアが築き上げてきたハブ需要が他地域へ流出しているのが現状です。

なぜ破綻しないのか? 国家戦略と一体化したビジネスモデル

 一般的な民間航空会社であれば、即座に大規模な運休や路線縮小に踏み切る局面です。しかし、彼らがそれを「しなくて済む」最大の理由は、国家との緊密な一体化にあります。

 中東の主要キャリアは、政府の強力な後ろ盾を持つ国営、あるいはそれに準ずる企業です。UAEやカタールといった湾岸諸国にとって、航空事業と巨大ハブ空港は単なる一産業ではなく、国家の存在感を示す生命線にほかなりません。湾岸諸国政府は、短期的な赤字を受け入れてでも、世界を結ぶ人流・物流の拠点を維持することを選択しています。国家のインフラとしての執念が、この運航を支えています。

パンデミックで証明された「危機を好機に変える」ブランド戦略

 さらに、彼らには「危機下で飛ばし続けた者が、最終的な勝者になる」という成功体験があります。その最たる例が、新型コロナウイルス禍での立ち回りです。

 世界中がロックダウンに見舞われた際、カタール航空は運航を継続し、各国に取り残された人々の帰国を支援し続けました。結果として一時期は世界の国際線旅客輸送量の約2割を占める世界最大のキャリアとなり、「いざという時にも頼れる航空会社」という絶大な信頼を獲得しました。今回の危機でも、競合が撤退するタイミングだからこそ、あえてネットワークを維持することで将来的な市場シェアを先取りするマーケティング投資を行っていると言えます。

驚異の「搭乗率7割」を死守する、緻密なオペレーション

 特筆すべきは、これほどの逆風下においても、彼らが依然として「70.1%」という高い搭乗率を維持している点です。これは決して偶然ではなく、したたかで緻密なオペレーションの賜物です。

 第一に、徹底した機動的な供給量調整が挙げられます。旅客需要の激減に合わせて、中東各社は即座に提供座席数(ASK)を約4割もカットしました。大型機から燃費効率の良い中型機へのダウンサイジングや、世界規模での柔軟なフリート戦略が瞬時に実行できる強みがあります。

 第二に、強力な貨物による下支えです。旅客の搭乗率が7割であっても、床下貨物をフル活用することでフライト全体の採算ラインを確保しています。

 そして第三に、「どうしても移動が必要な層」の独占です。他国の航空会社が早々に撤退する中、代替ルートを失ったビジネス客やVFR(友人・親族訪問)層の需要を、中東キャリアが一手に引き受けています。競合不在のなかで強気なイールドコントロールを行っても座席が埋まる構造が、この7割という数字を支えています。

日本路線にも表れる強気な姿勢と、来るべき「需要回復」への布石

 数字のうえでは、現在の中東エアラインがかつてない苦境に立たされていることは紛れもない事実です。しかし、彼らにとってフライトを維持することは、目先の四半期決算の赤字を埋めることよりも遥かに重要な「未来への投資」なのです。

 そのしたたかで強気な姿勢は、日本の航空市場に対しても如実に表れています。世界的な逆風下にあるにもかかわらず、カタール航空はまもなく成田空港および関西国際空港への便を増便する計画としており、エミレーツ航空も10月末から成田線の増便を予定するなど、攻めの姿勢を緩めていません。

 そして最近になり、緊迫していた中東情勢にもようやく戦争の終結が見えてきました。彼らが耐え忍んだ暗黒期が明けようとしている今、これまで買い控えていた旅行者の需要回復に向けて、各社から世界規模の大きなプロモーションが仕掛けられることも十分に予想されます。

 世界の結節点としての機能を止めず、ブランドの信頼を守り抜き、卓越したオペレーションで傷口を最小限に抑え込む。この危機を耐え抜いた先に、再び世界の空の主導権を握るという中東エアラインの恐るべき戦略が、今日も彼らを空へと向かわせているのです。

エミレーツ航空、ネットワークの96%を回復 成田線の貨物便は5月22日から増便し旅客便は10月からダブルデイリー化

カタール航空、大阪/関西~ドーハ線を2026年6月16日より運航再開 成田線は増便で日本路線を大幅強化

カタール航空、2026年7月15日より東京/羽田~ドーハ線の運航を再開 8月にはデイリー化