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1,300人を運ぶ新幹線は1人なのに、なぜ大型旅客機は「ワンマン操縦」が許されないのか?

 9人乗りの小型機(セスナ208キャラバンやホンダジェットなど)がパイロット1人で空を飛び、時速300kmを超えるスピードで1,000人以上(東海道新幹線の16両編成なら約1,320人)の乗客を運ぶ新幹線が、たった1人の運転士によって運行されている現代。しかし、その新幹線よりも少ない300〜400人の乗客を乗せて飛ぶ大型旅客機は、常に機長と副操縦士の「2人体制」が航空法で厳格に義務付けられています。

 1,300人を1人で運べるのに、なぜ空の便ではワンマン運航が許されないのか。本記事では、その決定的な理由と、航空機メーカーの最新の取り組み、そして予想される「空の未来」について解説します。

 新幹線や小型機が1人で安全を担保できているのに対し、大型航空機がそうはいかない背景には、物理的な環境とシステムにおける「安全装置」の根本的な違いがあります。

 まず挙げられるのが、「空中で止まれない」という絶対的リスクです。新幹線はレールの上(1次元)を走るため、運転士に万が一のことがあっても、一定時間運転士の反応がないと自動で急ブレーキがかかる「EB装置(緊急列車停止装置)」や自動列車制御装置(ATC)が作動し、安全にその場で停止します。一方、3次元空間を飛ぶ航空機は、空中で立ち止まることができません。1人のパイロットが急な体調不良等による操縦不能に陥ることは、即座に墜落の危機に直結します。

 さらに、システムの複雑さとタスク量の違いも大きな要因です。小型機はシステムが比較的シンプルに設計されており、万が一のトラブル時にもパイロット1人で対処できる時間的・空間的な猶予があります。しかし大型機は、天候、他機との位置関係、航空管制官との複雑な交信に加え、高度なFMS(飛行管理システム)の操作など、パイロットが同時に処理すべき情報量が膨大です。そのため、「もう1人の人間」が即座に操縦を代わり、クロスチェック(相互確認)を行うという物理的なバックアップ(人間の冗長性)が絶対条件となっています。

 航空機が空中で止まれない以上、大型機での完全なワンマン操縦(SPO:Single Pilot Operations)は不可能に思えますが、実は現在、航空機メーカーは最新技術を駆使してコックピットの自動化を本格化させています。

 欧州のエアバス社をはじめとするメーカーは、パイロットの業務負担を劇的に減らす技術開発に注力しています。その代表例が、エアバス社が進めている技術実証「プロジェクト・ドラゴンフライ」です。このプロジェクトでは、クルーズ中の自動化だけでなく、パイロットが操縦不能になった際にシステムが自律的に代替空港を選定し、自動で着陸・地上走行までを行う自動緊急ダイバート機能などのテストが進められています。

 また、現在、欧州航空安全局(EASA)などで現実的に議論されているのが「eMCO(Extended Minimum Crew Operations:拡張最小乗務員運航)」という概念です。これは、離着陸時のように業務負荷が高い場面では従来通り2人で操縦し、安定した「巡航中」のみ、1人がコックピットで操縦し、もう1人が休憩室で休むという運用です。これにより、長距離フライトにおける交代要員(3〜4人目のパイロット)を減らし、エアラインの運航効率を向上させる現実的なステップとして注目されています。

 技術的には、軍事用ドローンが遠隔操作されているように、大型機を無人やワンマンで飛ばすことは不可能な領域ではなくなりつつあります。しかし、民間航空機でのSPO実現には、技術面以外の大きな壁が立ちはだかっています。ワンマン操縦の技術は、まず乗客を乗せない「大型貨物機」をテストベッドとして段階的に導入されると予想されています。ここで数年単位の実績と安全性のデータを蓄積することが、旅客機への応用の大前提となります。

 そして最大の壁となるのが、「心理的受容」と「労働組合」の存在です。もし「この飛行機のパイロットは1人だけです」とアナウンスされたとき、乗客は安心して搭乗できるでしょうか。社会的受容を醸成するのは、技術開発以上に困難な課題です。また、国際的なパイロットの労働組合であるALPAなどは「Safety Starts With 2(安全は2人から)」というキャンペーンを展開し、コスト削減を目的としたワンマン化には強硬に反対しています。

 新幹線が「線路と自動ブレーキ」という地上システムに安全を委ね、小型機がシンプルな構造で1人操縦を実現しているのに対し、数百人の命を預かる大型旅客機は「人間の冗長性」に命を預けてきました。プロジェクト・ドラゴンフライなどの技術の進化によって、将来的にはeMCOによる巡航中のワンマン化や、貨物機でのSPOは実現する可能性が高いでしょう。しかし、想定外の事態(急激な天候変化や全エンジン停止など)に臨機応変に対応する「2人の人間の連携」を完全に機械へ置き換えるには、まだ数十年単位の議論と実績の蓄積が必要になりそうです。

 もし将来、技術がさらに進歩し、「データ上は2人乗務と同等以上に安全だ」と証明される日が来たとして、あなたは、パイロットがたった1人しか乗っていないSPOの大型旅客機に、安心して身を委ねることができるでしょうか?Photo : Airbus

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