米国連邦航空局(FAA)が現在検討を進めている、ボーイング787型機のスラストリバーサー(逆推力装置)に関する新たな耐空性改善通報(AD)案に対し、全日本空輸(ANA)が公式にパブリックコメントを提出し、一部機材の点検対象からの除外を求めていることが明らかになりました。
本件の発端は、スラストリバーサーの構造部品においてクラック(ひび割れ)が発生するリスクが報告されたことにあります。これを受け、FAAは事前の安全措置として、当該装置の定期的な検査を義務付けるAD案を公示しました。
スラストリバーサーは着陸時の減速に不可欠な重要装備であり、クラックの放置は重大なインシデントに直結する恐れがあります。そのためFAAの規制強化はやむを得ない措置と言えます。しかし、対象機種を保有する航空会社にとって、一律の追加検査義務化は莫大な整備工数の増加と機材稼働率の低下を意味します。安全性と運航効率のバランスをどう取るかが、業界内での大きな焦点となっていました。
この広範な規制案に対し、ANAは自社の実運航データと独自の検証結果を盾に、論理的な意見を展開しています。FAAへ提出された意見書によれば、主張の核心は以下の2点にあります。
第一に、ロールス・ロイス(RR)製エンジン搭載機の完全な除外です。ANAは独自にRRエンジンのスラストリバーサー25基の検査を先行して実施しましたが、クラックは一件も発見されなかったということです。さらに、世界的な不具合報告の大部分がゼネラル・エレクトリック(GE)製の「GEnx」エンジンの左側(LH)ポジションに集中している点や、ボーイングが実施を予定している原因究明の飛行テストがGEnx搭載機のみに絞られている点を指摘。「RRエンジンにおける不具合リスクは極めて低い」とし、同エンジン搭載機を検査対象から外すよう強く求めました。
第二に、GEnxエンジンの右側(RH)の除外要請です。前述の通り、クラックの発生が左側に顕著に偏っているという事実に基づき、たとえGEnxエンジンであっても右側のポジションについては、過剰な点検要件を緩和すべきだとしています。
航空当局の安全基準が絶対的であることは言うまでもありません。しかし、ANAのように自社で先行して厳密な検査を実施し、その客観的なデータに基づいて規制の最適化を当局へ直接交渉するプロセスは、安全性を担保しつつ不必要なダウンタイムを削減する、現代のエアラインに求められる高度なフリートマネジメントの実態を浮き彫りにしています。不必要なダウンタイムを回避し、競争力を維持するためにも、この申し立ての行方は重要です。FAAがANAの提示した実証データをどのように評価し、最終的なAD(Final Order)へ反映させるのか、今後の当局の判断が待たれます。




