2026年6月10日、サウジアラビアの新たな国営航空会社であるリヤド航空が、同社初となる一般向け商用路線、リヤド〜ロンドン/ヒースロー線の運航を開始しました。2025年秋から関係者向けの限定的な運航を経て、ついに自社仕様の最新鋭機材を用いた完全なフルサービスキャリアとしての第一歩を踏み出しました。当初は7月1日に予定されていた本格就航ですが、6月上旬のボーイング787-9型機(自社仕様機)の受領がスムーズに進んだことで、3週間の前倒しでの実現となりました。



このリヤド航空の誕生は、単なる一エアラインの新規就航という枠には収まりません。リヤド航空は、サウジアラビアが国家の威信をかけて推し進める経済改革構想「サウジ・ビジョン2030」の中核を担うプロジェクトです。脱石油依存と産業の多角化を目指す同国にとって、世界とサウジアラビアを直接結ぶ強力な航空ネットワークの構築は急務でした。政府系ファンドである公共投資基金(PIF)の莫大な資金力を背景に設立され、かつてエティハド航空のトップを務めたトニー・ダグラス氏をCEOに迎えた同社の経営陣容からも、その本気度がうかがえます。
リヤド航空の本格始動が世界の航空業界において「ゲームチェンジャー」になると目されている理由は、その圧倒的な成長スピードと、既存の中東メガキャリアに対する強力な対抗軸となる点にあります。同社はすでにボーイング787-9のみならず、エアバスA350-1000やA321neoなど大型機から小型機まで100機を超える大量発注を済ませており、2030年までに世界100都市以上へ就航するという野心的な目標を掲げています。
ロンドン線就航を皮切りに、6月中にはジェッダ、ドバイ、カイロ、7月にはマドリードやマンチェスターと、息つく暇もなくネットワークを拡大していく計画です。さらに、日本の航空市場にとってもこの動向は注視すべき事象です。同社はアジア路線網の構築も急ピッチで進めると見られており、成田線への早期就航も有力視されています。これが現実のものとなれば、日本と中東を結ぶ直行需要の開拓のみならず、アジアと欧州・アフリカをつなぐ既存の経由便シェア争いへの影響も避けられないと考えられます。
これまで中東の航空業界は、ドバイを拠点とするエミレーツ航空やドーハを拠点とするカタール航空など、地理的優位性を活かした乗り継ぎ需要の獲得を軸に成長し、近年は自国へのインバウンド誘致にも成功して圧倒的な地位を築いてきました。リヤド航空もまた首都リヤドを強力なハブとしたネットワークを構築しますが、既存キャリアとの決定的な違いは、その背後にある「市場のスケール」です。サウジアラビアは人口3,000万人を超えるG20の経済大国であり、「サウジ・ビジョン2030」のもとで推進される未曾有の観光投資や巨大都市開発により、他の中東都市国家とは桁違いの巨大な自国発着需要が初期段階から見込まれています。この強固な国家基盤と莫大な資本を背景に、参入する新星の台頭は、長らく固定化されていた中東3大キャリア(エミレーツ、カタール、エティハド)の勢力図を根本から揺るがすポテンシャルを秘めています。
また、同社は設立当初から「最高品質のサービスとゲスト体験」を提供すると強く意気込んでおり、機内設備やデジタル体験において既存のトップキャリアを凌駕する水準を目指しています。完全な商用運航がスタートした今、実際に搭乗した利用者がどのような評価を下すのか、業界内外から大きな注目が集まっています。最新のテクノロジーとサウジアラビアの巨大な国家戦略を背負って飛び立ったリヤド航空。今回のロンドン線就航は、世界の航空業界がサウジアラビア発の巨大な旋風に巻き込まれていく、その序章に過ぎないと言えます。Photo : Riyadh Air




