トランプ政権下のアメリカ国土安全保障省(DHS)および移民・関税執行局(ICE)が、事実上の「強制送還専用エアライン」の立ち上げに向けて本格的に動き出しました。従来の民間チャーター便への依存から脱却し、政府が購入した計9機の航空機を用いて、民間業者に運航や整備を丸ごと委託する独自の体制へ移行します。
米メディアでは「強制送還航空会社(Deportation Airline)」とも報じられていますが、実態は新規の航空運送事業者を設立するものではありません。機体を政府が資産として保有し、運航管理全般を既存の民間に包括委託するモデルが採用されます。DHSが発行した提案依頼書によると、政府は7機のボーイング737-700型機(または同等機)と2機のガルフストリームG650ERからなる計9機体制での運用を計画しています。運航を受託する民間事業者は、単にパイロットを手配するだけでなく、客室乗務員、機内の医療スタッフ、さらには専門の警備チームをパッケージとして提供し、日常のメンテナンスから物流サポートに至るまでのライフサイクル全般を管理することが求められます。さらに、運用上の最大の特徴として「24時間365日の即応体制」が挙げられており、国内外の拠点に向け、非常に短い事前通知での任務付与に対応することが必須要件とされています。
これまでICEは、不法移民の移送や送還において、その都度民間のチャーター便を利用する手法をとってきましたが、この方式は限界を迎えていました。最大の理由はコストと運用の非効率性です。急な裁判手続きの変更などに伴う直前のフライトキャンセルや空席状態での運航が発生しやすく、時間単位で支払う高額なチャーター費用が財政を圧迫していました。
また、民間航空会社の動向も大きく影響しています。これまでICEのチャーター便運航を一部受託していた米LCCのアヴェロ航空は、政治的論争の的になるリスクと、運用の複雑さに見合う収益が得られないことを理由に、同業務からの撤退を表明しました。こうした民間手配の不安定さが、政府に機体を自ら保有し専属業者に運航を丸投げするという独自の航空ネットワーク構築を急がせる決定打となりました。なお、今回運用の中心となるボーイング737型機の一部は、このアヴェロ航空が使用していた機体をリース会社経由で政府が買い上げたものとみられています。
現在、DHSは事業者からの提案を受け付けており、早ければ今秋にも正式な運航委託契約が締結される見通しです。この新たな専属運航体制の本格的なローンチは2027年半ばに設定されており、契約は2032年まで継続される予定です。時間単位のチャーター契約から、事実上の自社フリート運用への転換という、政府主導による航空機運用の巨大な内製化プロジェクトが、目的とするコスト最適化と運用ペースの加速をどこまで実現できるのか、航空業界からも今後の動向に大きな関心が寄せられています。Photo:Donald J. Trump
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