カンタス航空が計画する超長距離直行便「プロジェクト・サンライズ」に向け、エアバスA350-1000ULRのテスト機(MSN707)がオーストラリアのメルボルンからフランスのトゥールーズまで、24時間以上にわたる飛行を行いました。この歴史的なフライトが成功を収めたことは既報の通りですが、エアバスはこのほど、飛行距離12,460海里(約23,075km)、飛行時間24時間24分に及んだこのミッションに関する、技術面および運用面の詳細な舞台裏を新たに公開しました。


今回のミッションは型式証明の取得ではなく、開発における機能検証を目的とした飛行テストとして実施されました。最大の目標は、カンタス航空が実際の運航で想定している21時間40分のフライト(上空待機やダイバート、地上滑走を含む)を安全にカバーするための、「23時間のブロックタイム(出発時のパーキングブレーキ解除からスポットイン)」を実証することにありました。
機内テストの主眼は、空調と燃料管理システムの検証に置かれました。特に焦点が当てられたのが、超長距離飛行を可能にする容量20,900リットルの「後部中央燃料タンク(RCT)」の機能です。往路の約20時間のフライトで温度設定の安定化など基本的なデータ収集を済ませていたため、復路の超長距離フライトでは残されたバックアップテストに集中するスケジュールが組まれました。
また、超長距離フライトに特化した新たな設備として、パイロット専用の休憩室「ツイン・フライト・クルー・レスト・コンパートメント(FCRC)」の評価も行われました。これは2つの独立した空間と個別の入り口を持ち、交代時に互いの睡眠を妨げない仕様となっています。今回のフライトでは、24時間超という過酷な環境下での室内の空調および換気性能を精密に実証するため、FCRC内には無数のセンサーや計測機器が設置されていました。そのためパイロットたちは同室を使用せず、機体後部にある客室乗務員用の休憩スペースを代用して仮眠をとるという、テスト機ならではの運用が行われました。
また復路のフライトには、機長を務めたエアバスのテストパイロットであるグザヴィエ・ペパン氏を含む3名のエアバス側パイロットに加え、実際に同機を導入するカンタス航空からA350の操縦資格を持つ2名の機長が合流しました。さらに、コックピットでシステムを監視する2名のエンジニアと、客室で快適性や燃料監視を統括する3名のエンジニアが同乗しました。

20時間以上に及ぶフライトでの疲労管理として、5名のパイロットは4時間ごとのシフト制を採用しました。交代は2時間ごとにずらして行われ、常に「前任者と2時間のオーバーラップ」を持たせることで、コックピット内での完全な状況把握を維持しました。また、運航責任はエアバスにあるため、カンタス航空のパイロットが操縦席に座る際は、必ずエアバスのテストパイロットがもう一方の席に同席するという厳格な安全体制が敷かれました。
飛行ルートの選定にもテスト飛行特有の配慮が見られました。メルボルンを離陸した機体は太平洋を横断してロサンゼルスへ向かい、アメリカとカナダを横断しました。その後、グリーンランド南部の北大西洋を抜け、イギリス上空を経てトゥールーズへと至る軌跡を描いています。この極端に北寄りの大西洋横断ルートが選択されたのは、定期便が日常的に使用するルートを意図的に避けることで、航空管制上のトラブルを未然に防ぐためでした。

今回公開された詳細なフライト記録により、A350-1000ULRが単に航続距離を延ばしただけでなく、燃料供給や客室空調、そして乗員の厳格な疲労管理といった多角的な面から、超長距離飛行における高い安全性と信頼性を備えていることが実証されました。極限の環境下で行われたこの「23時間のブロックタイム」の実証は、カンタス航空が悲願とする「プロジェクト・サンライズ」の実現に向けた最大の関門を突破したことを意味します。前人未到の超長距離路線の就航に向け、航空業界全体の限界を押し広げる重要なマイルストーンになったと言えます。Photo : Airbus
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