昨日大きな話題となったデルタ航空による7年ぶりの東京/成田~シアトル線の再開は、一見すると過去の成田撤退および羽田集約という流れに逆行する不可解な決定に思えるかもしれません。現在、東京〜シアトル間の直行便市場では、成田〜シアトル線を日本航空(JAL)とアラスカ航空が、羽田〜シアトル線を全日本空輸(ANA)とデルタ航空がいずれもデイリー運航で結んでいます。この既存の競合状況と北米〜アジア市場の環境を俯瞰すると、同社なりの明確な戦略的意図が浮かび上がってきます。

その最大の要因として挙げられるのが、西海岸のハブであるシアトル市場におけるアラスカ航空への強烈な牽制です。近年、アラスカ航空はハワイアン航空との統合やワンワールド陣営(JAL等)との連携を深め、太平洋路線での存在感を急速に高めており、成田線でのデイリー運航もその象徴的な動きでした。シアトルを最重要ハブの一つと位置付けるデルタ航空にとって、地元市場でのシェア浸食は看過できない事態です。そこで、自社が持つ既存の羽田線に加え、あえて自らも成田線を被せることでシアトル発着の東京市場における供給座席数を大幅に増やし、アラスカ航空に対して直接的な防衛戦かつ消耗戦を仕掛けている側面が強いと考えられます。
また、日米間の羽田空港の発着枠がこれ以上の増枠が当面期待できないという事情も大きく影響しています。アメリカと東京を結ぶビジネスや観光の直行需要は依然として堅調であり、特にシアトル周辺には大手IT企業をはじめとする豊かな法人需要が存在します。デルタ航空自身も羽田〜シアトル線をデイリー運航し、羽田の発着枠を活用しきっている現状において、収益性の高い東京圏への直行客をさらに取り込むためには、成田空港の発着枠を活用するという選択肢が最も現実的だったと言えます。
かつてのノースウエスト航空時代のように、成田をアジア各地への「乗り継ぎハブ」として機能させる戦略とは根本的に性質が異なります。東南アジアや中国などへの乗り継ぎ客については、大韓航空との強力な共同事業を展開するソウル・仁川空港へと集約する棲み分けがすでに完了しています。つまり、今回の成田線はアジア域内への接続を前提とせず、シアトルと東京を結ぶ純粋な都市間需要と、ベリーカーゴの収益のみで路線を成立させるという、割り切った計算に基づいていると推測できます。
さらに、使用機材にエアバスA330-900neoを選択している点も、手堅い判断です。太平洋を横断でき、燃費性能に優れ適度なキャパシティを持つ機材を投入することで、座席あたりの運航コストを最適化します。
総じて今回の路線再開は、「成田ハブの復活」という大がかりなものではなく、「シアトル市場の死守」と「東京直行需要の追加獲得」を目的とした限定的な局地戦です。短期的には収益圧迫のリスクを伴いますが、成田ですでにデイリー運航を行っているアラスカ航空などに対する徹底した対抗措置と、羽田枠の上限下で収益機会を最大化しようとする、デルタ航空のアグレッシブな攻勢の一環であると考えることができます。
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